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未来技術の恐怖

 かつては、技術の進歩が人々に豊かな生活を与えてくれると思われていた。だが、ある時期から、技術こそが災厄の根源ではないかという不安が強まってくる。そうした中、アニメでも、未来技術がもたらす恐怖がしばしば取り上げられるようになった。

 大量破壊兵器の恐怖を描いたアニメなら、70年代から数多く作られてきた。これに対して、昨今のアニメに登場するのは、身近でリアルな技術がもたらす、暗澹たる社会である。

 アニメが現実を先取りした例として有名なのが、1989年の劇場用アニメ『機動警察パトレイバー the Movie』。サイバー攻撃によるインフラの破壊という事態は、今や、われわれが直面する危機そのものである。OS自体が「トロイの木馬」になる脅威は、数社の世界的大企業がIT業界を支配する現在において、映画公開当時よりも生々しいリアリティを持つ。


 テレビアニメにも、今まさに実現されようとしている技術の恐怖を描いた作品が少なくない。


 テロリストと国家権力の相克を描く『RIDEBACK』では、テロ撲滅という大義名分の下に導入された自律型ロボット兵器が登場する。

 プレデターに始まる軍用の無人ドローンは、テロリスト暗殺の兵器としてアフガニスタンやイラクで実際に使用されたが、遠隔操縦で人殺しの指示を出すオペレータに多大な精神的ストレスを与えることが問題となった。そこで、個人識別のためのAIを搭載し、自力で標的を探し出して暗殺を遂行する自律型殺人マシンの開発が、アメリカを中心に進められている。人道的観点から国際法によって禁止しようとする動きもあるが、実現していない。

 アニメに登場するのは、ライドバックと呼ばれるオートバイに手が付いたような機械。もともとは人間が跨がって操縦する乗り物だったが、プレデターを思わせる新型ライドバックは、無人でもAI制御で攻撃ができるように改良されている。物語のクライマックスでは、クラシックバレエで鍛えた運動神経でライドバックを操るヒロインが、人間としての尊厳を懸けて、暴走する無人ライドバックの群れに立ち向かう。


 AR(拡張現実)が孕む潜在的な恐ろしさに目を向けたのが、『電脳コイル』である。

 現在は、ARの黎明期である。修理工がゴーグル型のAR機器を装着すると、どの部品をどこに取り付ければ良いかが、現実の視覚像に重なる形で表示される−−その程度の技術ならば、すでに実用段階にある。あと何年かすると、電脳メガネが商品化され、町歩きの際にショップに視線を向けると、そこの口コミ情報が表示されるようになるかもしれない。グーグル・マップのAR版ではあるが、現実と重なって知覚される情報は、単なる口コミであっても、スマホ画面に表示される場合とは異なって、実に易々と心に侵入してくるだろう。それがどのような心理状態を生み出すか、ARがさらに進化して現実と情報の区別がつかなくなったときに何が起きるか、誰にもわからない。

 『電脳コイル』に登場するARには、メタバグやイリーガルと呼ばれる欠陥があり、子供が遊びに利用しているものの、そんなに生やさしいものではない。開発した企業は、欠陥に気がつきながらひた隠しにするばかり。その結果、ARを常用する子供たちの間に、しだいに精神疾患の症状が拡がっていく…。


 『PSYCHO-PASSサイコパス』に描かれるのは、極限的な監視社会である。そこでは、無人システムが、街中に張り巡らされた監視網を通じて片時も休まず目を光らせており、犯罪性向が高まったというだけで検挙される。

 至る所に監視カメラが存在する状況は、すでに現実のものとなったが、さらに進んだ『PSYCHO-PASS』の世界も、もはや空想の領域にはない。麻薬中毒患者や万引き常習者の映像をビッグデータとしてAIに学習させ、イベント会場や空港で同じ動きをする人を探索して警備員に通報する監視システムは、すでに実用化されており、海外の一部で導入済み。日本でも、東京オリンピックに向けて、不審者をピックアップするシステムの導入が検討されているという。監視カメラの映像とスマホの位置情報を連合すれば、怪しげな人がどこで何をしているかまで容易に把握できる。「犯罪を未然に防止する」という名目で何が行われようとしているのか、われわれは正しく認識しなければならない。

 『PSYCHO-PASS』で最も恐ろしいのは、反社会的な人間とそうでない人間を区別する基準が、実に曖昧な点である。この基準を誰がどのようにして決めるのか−−原作者が出した解答は、私を心の底から戦慄させる。

(2017年12月30日)