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社会人のためのアニメ入門
(「アニメ初心者へのアドバイス」改題)

 クール・ジャパンの代表などと言われる日本アニメ。これほど評判なのだから、久しぶりにアニメでも見てみようかと思っている社会人のために、30年以上にわたってたゆまずアニメを見続けてきたキャポックちゃんが、大きなお世話をしてあげます。


○事前の心得

 ニュースなどではアニメ人気が沸騰しているように報じられていますが、それは、アニメの経済効果が注目され、企業人が首を突っ込むようになったから。ビジネスに利用しようとする人が、コラボや関連ビジネス(聖地巡礼ツアー、2.5次元舞台など)を通じて騒いでいるだけで、アニメの質自体は、決して向上していません。特に、テレビアニメは、00年代後半から10年代前半のピーク時に比べると、明らかな質的低下を示しています。ガンダムやエヴァンゲリオンに熱狂した世代が、数十年ぶりにテレビアニメを見ると、がっかりすると思います。

 劇場用アニメは、玉石混淆です。テレビアニメに見切りをつけた有能なアニメ作家が、クラウドファンディングなどを通じて資金を調達し、熱意を持って作り上げた作品には、傑作が少なくありません(片渕須直、新海誠、湯浅政明、細田守、原恵一らの作品)。

 その一方で、人気テレビアニメの劇場版は、単なる総集編だったり、特定キャラをフィーチャーしたスピンオフ作品だったりして、オリジナルほど面白くないものが大半です(『涼宮ハルヒの消失』のように、劇場版がテレビ版以上に面白いという稀なケースもありますが)。また、マンガ・ラノベ・ゲームの人気作を元にした劇場用アニメになると、高騰する制作費を回収するためにアニメビジネスのシステムに組み込まれ、クリエーターが創造性を発揮できないのがふつうです。原作ファンの歓心を買おうと、プロデューサーが「キャラ設定を変更してはいけない」など多くの制限を付けるせいです。

 こうした状況があるので、社会人になってから、久しぶりにアニメに目を向けてみようとする場合、原作人気にあやかった劇場版は避けた方が良いでしょう(実写映画でも同様です)。


○作品選び

 テレビアニメは、全般的に質が下がっているとは言え、制作本数が膨大なので、隠れた名作もそれなりにあります。

 作品選びに際して、ネット検索はあまり役に立ちません。最新作の場合、作品名で検索すると、プレスリリースの内容をそのまま転載したような記事が上位を独占します。これは、アニメビジネスの推進者が、プロモーションのため積極的にネットに情報を流しているからです。

 ファンサイトで調べることもできますが、熱烈なファンが推す作品は、同じ趣味嗜好の持ち主でなければ楽しめないことが少なくないので、注意が必要です。

 やはり、好みに合う作品を自力で探し出すのが良いでしょう。とりあえず、冒頭の2〜3話を見てから自分で判断すべきです。

 このとき、監督と脚本家の名前をチェックしてください。アニメは、多くのクリエーターの共同作業で作られますが、監督は、その全体を統括し作品の方向性を決定づける立場にあります。「この監督の作品は必ず見る」と決めているファンは、少なくありません。

 ちなみに、ここ20年間で私が好きなアニメ監督は、神山健治、渡辺信一郎、浅香守生、新房昭之、あおきえい、荒木哲郎、岡村天斎、今石洋之などです。作品数は少ないものの、幾原邦彦や村瀬修功からも目が離せません。最近の若手では、押山清高とたつきが要注目。

 脚本家も重要ですが、近年は、マンガやラノベからアニメ用シナリオを作るリライト要員として使い倒されているようで、かつての伊藤和典や井上敏樹、佐藤大のような圧倒的存在感を放つライターは少なくなりました。それでも、虚淵玄をはじめ、岡田麿里、吉田玲子、倉田英之らが脚本を書いたアニメは、できるだけ見るようにしています(大河内一楼、村井さだゆき、小林靖子も気になります)。


○目の付け所

 久しぶりにアニメを見ると、80〜90年代のアニメに比べて背景が格段に美しくなったと驚くでしょう。しかし、これは、写真をコンピュータでアニメ絵に変換する技術が向上した結果です。見栄えは良いがドラマには絡んでこない、単なるお飾りに過ぎないケースが大半です。人物描写、特に身体のポーズで内面を表現するテクニックに関しては、むしろ技術が衰えたと感じさせます。

 また、ちょっとしたギャグで視聴者を笑わせるのはうまくなりましたが、骨太の構成を持つ重量級の作品は減っています。

 一時的な娯楽としてアニメを楽しむだけならともかく、生涯の糧になるような作品を求めるならば、背景が美しいとか何度も笑えたといったことにとらわれず、画面のあちこちに目をこらしながら、作者が何を作品に込めたか思い巡らしてほしいものです。

 日本アニメには、独自に進化してきた表現テクニックがあります。止め絵を効果的に使うのはその典型で、ここぞという場面で丹念に描き込まれた静止画を提示し、エモーションを掻き立てます。最近は、キャラがひっきりなしに動き回るアメリカ産カートゥーンがもてはやされ、こちらの方が技術的に高度だと錯覚する向きも見られますが、動くだけで面白がるのは子供の感じ方です。大人ならば、画に含まれる情報を解読して作者の意図を理解すべきでしょう。

 優れたアニメは、実に豊かな内実を秘めています。ここでは、アニメ鑑賞眼の試金石になるものとして、5つの短編を挙げておきます(動画配信サイトやDVDレンタルにあります)。これらをじっくり見ながら、アニメを鑑賞するとはどういうことかを確認してください。


(2019年02月23日)