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オワコンにしないために

 「オワコン」というイヤな言葉がある。「終わったコンテンツ」「一時期は人気を博したが、ブームが去って顧みられなくなった作品やグッズ」の意味で、幸い、最近では、オワコンという言葉自体が終わったようだ。だが、「人気を失って忘れ去られる」という状況は、用語の消長とは無関係に、昔も今も、さまざまなコンテンツを蝕む宿痾である。

 オワコン状況は最近に始まったことではない。シェークスピアの戯曲やベートーヴェンの音楽も、ボーモント=フレッチャーのお涙頂戴のロマンス劇やロッシーニの軽快な喜歌劇に比べて重すぎたせいか、作者の生前に人気を失ってオワコンとなった。そのまま忘れ去られる危険性もあったが、いつまでも見捨てない熱心なファンがいたため、復活できたのである。それでは、アニメはどうだろうか?

 日本のアニメファンはかなり目が肥えており、ブームが過ぎたからと言って、優れた作品をあだやおろそかにはしないという希望的観測もある。映画の観客動員数、音楽のCD売り上げやダウンロード数、テレビドラマの視聴率などのランキングを見ると、どうしてこんなものが…と思われる作品が上位を独占することも稀ではない。それに比べると、アニメやマンガなどのヒット・ランキングは、かなりの程度まで作品の質と連動しており、こうしたサブカル分野のファンには目利きが多いと実感させられる。

 しかし、近年、一部のヒット作が火付け役となって、グッズが爆発的に売れたり聖地巡礼が起きたりした結果、「アニメは金になる」との思惑から、企業人が制作に首を突っ込むようになり、アニメを商品として消費する傾向が強まってきた。漫画やラノベのヒット作を原作として、視聴者の嗜好にあわせた類型的なキャラを並べ、人気声優をキャスティングしただけの凡作に対して、露骨なまでの誇大宣伝が繰り広げられる。ディープなファンなら見向きもしないそうした作品でも、アニメに関する素養の乏しい新参者は、宣伝に引きずられてしまうだろう。この手の新参者の特徴は、アニメが好きだと口にしながら新作しか見ないこと。ベストセラーしか読まない自称“本好き”と同じで、結果的にコンテンツの消費に手を貸している。

 コンテンツの消費という点では、アメリカにおけるドラマ作りの動きが参考になる。アメリカのドラマ制作会社は、各種の調査方法で視聴者の好みを分析しており、人気を呼ぶ要素を巧みに配した「そこそこに面白い作品」を作るノウハウを持っている。世の中には、評判の作品を見たという事実だけで満足する人がかなりいるため、“そこそこの”ドラマでも、大宣伝付きでテレビやネットに流せば、ほぼ確実にヒットさせられる。私が傑作ドラマと呼ぶのは、『レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯』『ある結婚の風景』『ベルリン・アレクサンダー広場』『デカローグ』などで、これらに比べると、最近のアメリカ製ドラマは、うまく作ってあるとは思えても感動はしない。作品を流す会社(放送局・配信業者)は、大宣伝とともに作品を次々投入することで金儲けができるが、資金の回収期間が過ぎた古い作品は、使い捨てにされ忘れられる。

 日本では、バンダイチャンネルやdアニメストア、GYAO!などを併せると、古い作品も含めてかなりの数のアニメが配信されているが、それでも、『青い花』『英國戀物語エマ』『灰羽連盟』『恋風』『青い文学シリーズ・人間失格』など、傑作であるにもかかわらず動画配信で見られないアニメが少なくない(現時点では、DVDレンタルで見られる)。企業人がアニメを商品として扱う場合、アメリカのドラマと同様に、大宣伝によって資金を回収し、宣伝効果が薄れれば、オワコンとしてあっさり切り捨ててしまうだろう。それを防ぐのは、シェークスピアやベートーヴェンのケースのように、作品を愛するファンの力である。

(2017年08月26日)


【補記】『灰羽連盟』は、2018年にバンダイチャンネルで配信されました。
【補記の補記】『灰羽連盟』は、2015年にフジテレビ・オンデマンドで配信されていました。
【もう一つ補記】『英國戀物語エマ』は、2019年にGYAO!で配信されました。